馬油(ばゆ)

化粧品や花粉症対策としても有名な馬油ですが、昔は火傷の薬として重宝されていました。

馬油の成分

薬師堂創業者である馬油の父、直江昶(なおえ とおる)氏の研究によれば、馬の脂肪は高度の不飽和脂肪酸が多量に含まれ、人間の脂肪と成分が酷似しているそうです。
そのため馬油は皮膚浸透性に優れ、人体との親和性が高く血行促進の効果があるとのこと。また、細菌類を完全に馬油の中に取り込んでしまう“吸収捕菌力”があるそうです。

ちなみに、馬油に含まれる成分は以下の通りです。

ラウリン酸 0.2%
ミリスチン酸 3.2%
パルミチン酸 24.7%
パルミトレイン酸 7.0%(頚部は倍)
ステアリン酸 5.9%
オレイン酸 35.5%
リノール酸 10.8%
リノレン酸 9.5%

 

飽和脂肪酸:ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸
不飽和脂肪酸:パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸

馬油と湿潤療法

直江氏が馬油を開発するきっかけになったのは昭和23年暮れ、氏自身の大やけどです。

それから数日後、昶がいつものように工場内の鋳鉄場で働いていたときのことです。
何かに躓いて転ぶまいと左手をついた先は、真っ赤に焼けた大鉄釜だったのです。

この時、大火傷を負った昶の左手を救ったのは数日前にもらった馬の脂肪でした。
偶然とはいえ運命的な馬の油との出会いでした。

重症の大火傷を負うと「熱い」などを通り越した激痛で、呼吸をするのがやっとになります。その時、一緒に馬肉を食べた仲間が残っていた馬肉の脂肪をすぐに塗ってくれましたが、しばらくはうずくまったまま動くこともできませんでした。

正気を取り戻した昶は、「この大火傷はどうせ医者でも治せまい。ならば、火傷に効くという馬肉の脂肪をこのまま試してみよう」と考えました。

昶はそれから毎日、馬肉の脂肪をたっぷりと掌に塗り、火傷の治療を続けました。やがて2ヶ月が過ぎた頃、いつものように掌に張り付いたガーゼの上から馬の油を塗り足そうと包帯を外したところ、掌が痒くて仕方なかったのです。

あまりの痒さに恐る恐るガーゼを剥いでみたところ、焼け焦げて真っ黒だった掌の皮は、かさぶたが剥げるようにガーゼといっしょに剥がれ、その下にはピンク色のきれいな皮膚が現れました。
なんとそこには、うっすらと指紋までできあがっていたのです。

これを見た昶は、馬肉の脂肪の効力を確信しました。そして、3ヶ月も過ぎた頃には全く傷跡も残らず完治していました。

 

なんと、現在普及しつつある湿潤療法そのものじゃないですか!

湿潤療法では主に食品用ラップとワセリンを使用しますが、直江氏の場合は、たっぷり塗りつけた馬の脂肪が、焼けこげた皮膚の中まで浸透して創面の乾燥を防ぎ、その下で浸出液がせっせと皮膚を再生していたのでしょう。

現在の湿潤療法においては、傷の痛みを抑える目的でワセリンを使用するそうで、別にラップだけでも良いそうです。
もし冒頭に記した、馬油の“優れた皮膚浸透性と血行促進効果”が、医療現場でも確認されれば、ワセリンに対する大きなアドバンテージになるかもしれません。だって、より早く治りそうだし。

馬油愛好者としては更なる研究を期待したいところです。

馬油の評判

直江氏は開発当初、馬油を皮膚保護材として商品化する予定だったそうですが、“前例がない”ということで厚生省(当時)の許可が下りず、やむなく食用油脂として昭和46年に売り出したそうです。
その後、技術の進歩により油臭を除去して純度を高め、昭和63年に日本で初めてスキンケア化粧品の成分(原料)として厚生省から許可が下り、新たに「ソンバーユ」という名前で、スキンケア化粧品として発売されるようになったとのことです。

馬の油100%ということで、最近では肌に優しい基礎化粧品として有名ですね。アトピー性皮膚炎にも効果があるらしいとか、口コミで評判が高まってもいるようです。
私は観ていなかったのですが、TV“スパスパ人間学”で“馬油が鼻粘膜を保護する”と放送されてからは、鼻に塗る人々も増えているかもしれません。

馬油の塗り方

私は鼻オンリーなので、肌には殆ど塗ったことがありません。鼻から垂れたのを手でごしごし、ぐらいですが、確かにサラダ油などと比べるとサラサラしていて浸透する感じがします。

鼻への塗り方ですが、直江氏のサイト『馬油と梅雲丹の研究』には“仰向けになって、綿棒で鼻の穴にたっぷり詰めこむ”と書かれています。
鼻の中全部に馬油を行き渡らせるのは無理だと思いますが、とりあえず私もたっぷり塗っています。馬油は口中無害で、ホットケーキも焦げつかず綺麗に焼けるそうですが、試したことはまだありません。

ちなみに馬油ではありませんが、ヒビやアカギレにワセリンを塗る時は、ラップ療法による褥創治療の専門家、鳥谷部先生によると、入浴後に皮膚の皺やひび割れが埋まるぐらいたっぷり塗って、その後ワックスがけの要領で、乾いたタオルでから拭きすると良いそうです。

私はワセリンを使ったことがないのですが、ワセリンの融点は38℃~60℃だそうです。つまり、風呂上がりで皮膚の温度が高く、水分が豊富な状態でワセリンを塗ると、皺の中まで油膜ができて保湿もバッチリ、から拭きするから肌もべとつかない、ということでしょうかね。

馬油の融点は人間の体温より低く浸透性が高いので、ワックスがけをする程たくさん塗らなくても良いとは思いますが。もったいないし。

2chのアトピー板には、肌に水分を与えてから馬油を塗った方が良い、という意見もあります。

馬油の安全性

馬油は医薬品ではないので、少なくとも馬油100%のものは副作用の心配は少ないと言われていますし、馬肉は食物アレルギー患者用の献立にも使われるぐらい、アレルゲンとなる可能性が低い食品です。

しかし、馬肉・馬油が全くアレルギーを起こさないわけではありません。馬油を皮膚に塗った場合、アレルギー反応があれば短時間で皮膚が赤くなるそうです。

肌にお使いになる場合、馬油に限らずワセリンや軟膏も人によっては“相性が悪い”ことがあるそうなので、いきなり本格使用する前に、少量を腕などで試して様子を見た方が良いかもしれません。
薬師堂では無料サンプルを配布していますので、ハガキで申し込んでみるという手もあります。

鼻に塗る場合ですが、鼻の中は腕や足と違って粘膜です。肌に優しいと言われる馬油が、粘膜にも優しいと医学的に証明されているかどうかは分かりませんでした。

私自身“医学的に証明されないものは間違いである”などとは毛頭考えておりませんが、人によっては洒落にならない病気が陰に隠れている可能性もないわけではありませんので、ご自身の鼻を可愛いとお思いでしたら、馬油の前に一度耳鼻科で鼻の状態を確認されることを強くお勧め致します。